湯のしを見学させていただきました
新宿区の染色業
サロンのある新宿区の地場産業は「染め物」と「印刷」だそうです。
西武新宿線の中井、下落合、高田馬場周辺は染め物に関する多くのお仕事が続いています。
「染め物」は、かつて神田や浅草界隈で染物業を営まれた方たちが、豊富な水を求めて神田川のより上流の高田馬場〜落合、神田川支流の妙正寺川沿いに移り、今なお仕事を続けられ、地場産業となっています。
以前、神田周辺に学校(今でも多くの大学がありますよね)を作るために、政策で染色業を営む方々に転居してもらったとも聞いたこともあります。
着物に関する精練、色抜き、洗い張り、浸染、引染、小紋、手描友禅、江戸刺繍、紋入れ、手拭い染め、染色補正、湯のし、さまざまな技術や工程が行われている地域です。
今回、見学させていただいたのは上落合の吉澤湯のし加工所さん。
こちらに移られたのは90年ほど前で現在は3代目さんが活躍されていらっしゃいます。
湯のしとは
湯のしは、染めあがった反物や、洗い張りがおわった端縫い状態の反物を整える最後の工程。
蒸気をあてることで、しわを伸ばし、布の地の目を整えたりする作業です。
手元にある本の説明には
「湯のし」
・生地の長さや巾を一定にそろえるために、蒸気をあててシワや縮みを伸ばすこと。記事の風合いも増す。染め物に用いる。(『着物の事典』大久保信子より)
・織物の仕上げ工程の1つ。生地の長さや巾を整えるために蒸気で生地を伸ばすこと。友禅染めでのゆのしは、下のし、中のし、上げのしと、工程途中に3回行い、生地のしわを伸ばすだけでなく、発色を促して光沢を与える。(『新選きもの事典』池田喜政 筒井富朗 三村美奈子より)
とありました。
湯のしには機械を使うものと、手作業があります。
手作業での湯のしは絞りなど繊細な染め物。そういえば有松では手作業でした。
私も学生時代、日本刺繍の仕上げに湯のしで糸を整えたことや、染織品の修理では修復糸を落ち着かせるために手作業で湯のしをしたことを思い出します。
適度な湿気を与える蒸気は、糸や布を蘇らせる力があります。
湯のしの機械
今回は幅出機での作業を拝見しました。
湯のしに使用する幅出機を間近で見るのは初めて。
高さは2.5メートルくらいあります。
上から生地を送り、蒸気の上がった機械に通して生地を伸ばします。
まず幅出機にかけるために、反物を長くつなぎます。
今回は、洗い張りした表地と八掛。
一見、懐かしの足踏みミシンかと思いましたが、電動に改造したそうで、ものすごい速さで縫い進みます。
そして、あらかじめ機械にかかっている長い布(生成りの布部分)ともミシンで縫い合わせます。
長くつなげて機械にかけると、連なった布が自動的に移動して蒸気が出ている部分を通るのです。
蒸気があがる機械が動きはじめ布が送られてくると、両手で反物の両端を持って伸ばしながら、まっすぐに調節して地の目も揃えます。
すごい速度で布が動く中でも、正確に幅を調整しながらあっという間の職人技。
ほんの1〜2分で着物一反分のしわを伸ばし、生地はふんわり仕上っていて驚きました。
絹は技で蘇る!なんてサスティナブル!
湯のしが済んだ生地を巻く機械も拝見。
こちらもあっという間に反物になりました。
呉服屋さんに並ぶ反物はきれいに巻かれています。
素人はなかなかあのように巻けないな〜と思っていましたが、こんな機械があるのですね。
紺屋めぐり
現在は新しい反物の湯のしよりも、洗い張り後の湯のしをするほうが多いそうです。
昔の着物を解き、仕立てかえたり、ほかのものにリフォームされたりする方が多いようです。
今回、見学させていただく機会を得たのは「お江戸新宿 紺屋めぐりと染めあそび」イベント。
もう10年ほど前からイベントが行われているのは知っていたのですが、訪れたのは初めて。
神田川にかかる桜の紅葉がきれいでした。
ここで水元など行われていたのですね。
染色補正の彩徳さんにもお邪魔し、貴重なお話をうかがったり、大切なお道具を拝見したりすることができました。
興味深いお話の数々、時間が足りませんでした。
お忙しい中のご対応、ありがとうございました。
染織の集大成の着物、ますます好きに、そして大切にしていかなければと感じる一日でした。